ナラティブレポート発表会 Workshop


今回は、2つの事例を紹介させていただきます。
「大切なことを忘れず」
M.M
先日、夜勤で患者から「眠れそうにないので、またお薬もらえる?」とナースコールがありました。腎癌で終末期に移行しているTさんです。身体的な苦痛があるにもかかわらず、訪室すると穏やかな表情で、「いつもありがとう、夜遅くご苦労さんやな。」と、こちらがはげましてくださる、優しいTさんでした。眠前薬を持って行くと、私は思い切って聞いてみました。「夜、眠れないこともよくありますよね。」Tさんはゆっくり頷き、「先のこと考えて、怖くなったり、悩んだりしてしまうよ。」と、退院先について自宅に帰りたい、でも迷惑をかけたくない気持ちを話してくださいました。私は話をゆっくり聴いて共感することしかできませんでしたが、翌朝挨拶すると、「話をきいてもらったからよく眠れたわ、今日はすごくいい日になりそうよ。」と顔色もよく笑顔でした。
私は今年で看護師になって3年目になります。今回ナラティブレポートに向き合うことで、新人の頃に比べ、ゆっくり1人ひとりに耳を傾け、話を聴ける時間を自分自身で奪ってしまい、必要なことだけ質問していることが多くなったことに気づきました。患者にとって、話すことで苦痛や不安を緩和できる場合もあること、患者と時間を取り話すことの大切さを忘れず、患者のための看護を続けていきたいです。
「できなかったことへの思いと今の自分」
M.T
今の私を支えている看護の基礎となっている患者さんとの出会いとかかわりを話したいと思います。その経験は看護学生の三年生の時で70歳代ぐらいの女性の方であり、受け持ち患者さんでした。疾患は慢性的な肺線維症で、気管切開をしていました。また社会的には身寄りのいない方で一人暮らしの方でした。始めはコミュニケーション試みるのですが発声しづらく、会話もしにくい状態にありました。もちろん毎日訪室し、会話を試みますが患者さんは笑顔も少なく気分も落ち気味に感じ、コミュニケーションの深まりは難しかった印象でした。その後私は筆談も取り入れながら、実習を進めていきました。幾分少しの会話、筆談に応じてくれるようになりましたが、一日の実習を会話で過ごすことは時間が経つのは厳しかった場面でした。訪室のたびに、「息苦しくないか」を聞くことばかり考え聞いていました。患者さんは頷き小声でうんと返答する毎日が続きました。その後私は呼吸が苦しい患者様に何ができるのかを考え、体を清拭することで少しでも呼吸の助けになるようにと皮膚呼吸を観点に清拭をするという計画を立てました。最初は異性関係性でもあり「いやよ」と断られていましたが、何度かの説得にて理由を理解してもらえた結果、プライバシーに十分配慮しながら清拭をすることとなりました。その時私の看護指導者の方からは清拭をそのような観点から捉えることは思いつかなかったと、励ましの言葉を頂きました。その後は関りも少し進んでいくようになり、コミュニケーションも徐々に深まっていくことができました。そのころには、表情がさえなかった患者さんにも徐々に笑顔が見られるようになりました。また酸素ボンベを持参した車いすでの院内や中庭への散歩も計画し実施しました。散歩中では笑顔の少なかった患者さんがさらに自分から行きたいところを希望したり、話しかけてくれたりしました。その後は患者さんからは息苦しいことも忘れるよと言う言葉も聞かれ、酸素濃度が少し上昇する結果が得られました。今思えば小さな出来事ではありますがこのような事例を通して私は精神と身体と社会は関連しているという卒業前の事例研究を発表しました。しかしながら当時は体と心のケアしか出来ず、社会的な援助が殆どできなくて悔しい思いをしたことが今も心の中に強く印象に残っています。
現在では地域包括ケアが進んで社会的なサポートがよりその時代に比べて充実している社会となり、社会的サポートも患者の精神や身体に良い効果を与え、地域生活を送るための必要なものとして考えられています。今の自部署では病気を持ちながら地域で生活している精神障害の方たちの支援をしています。あの時できなかった悔しさから、社会的サポートを今に活かしながら、「身体精神社会」を基本に、3つの側面から総合的に支援していきたいと考えています。特に社会面では他職種の協働や医療と福祉の連携に注目し、利用者の方々のサポートに努力していきたいと感じています。今の自分をそのような思いにしてくれた貴重な患者さんとの関わりの一ページです。ありがとうございました。
